コンサート備忘録(新進気鋭のフルート奏者)

d0135403_12541655.jpg2008年1月19日(土) セント・ローレンス教会 St Lawrence Church, Eastcote, London

Flute) ズュージャ・ヴァモシ=ナジ Zsuzsa Vamosi-Nagy
Piano) 川上敦子 Atsuko Kawakami

C.P.E バッハ ソナタ ニ長調
モーツァルト  アダージョとロンド(コシ・ファン・トゥッテから)
シューベルト  「美しき水車小屋の娘」から3つの歌
タファネル    トマの歌劇「フランチェスカ・ダ・リミニ」による幻想曲
ヘンデル    ソナタ ホ短調
ハーン     モーツァルトの主題による変奏曲
プーランク   ソナタ

ロンドンの劣悪な地下鉄運行ではよくあることだが、途中駅で30分も待たされ、会場に駆け込んだのはまさに演奏が始まらんとする瞬間だった。滑り込みセーフ、と安堵しながら最後列の椅子に腰を下ろすと同時に、CPEバッハが始まった。

いつも思うことだが、器楽のリサイタルにおいて、曲目の構成はとても重要である。自分が演奏したい曲をただ並べるだけでは、演奏会としてまとまらない。全体の流れ、調和というものが必要である。同時に、ある程度の変化も無ければならない。オープニングに相応しい曲、メインになる曲、その間をつなぐ曲を、長さ・曲想・調性・難易度など、いろいろな要素を考えてバランスよく配置することが大切だ。

今日のリサイタルのプログラムは、とても良く練られていたと思う。CPEバッハのソナタは、幕開けの曲として完璧な選曲であった。教会の雰囲気や響きにぴたりと合い、聴衆の気持ちを朗らかにする。最初のフレーズを聴いた瞬間、「ああ、いい音楽だ、今日、来て良かった」と思った。

ズュージャは、ハンガリー出身で、現在は、英国王立音楽院の大学院にて大御所ウィリアム・ベネットに師事して研鑽を積んでいる。王立音楽院では学費全額免除の特待生、一昨年にはルーマニアの国際コンクールで優勝するなど、腕は確かである(メジャーなコンクールではないと謙遜していたが)。

ズュージャの音色や音楽的なセンスの素晴らしさは、レッスンをつけてもらっているのでよくわかっているが、ステージに立つとさらにパワーアップするから凄い。本番で力を発揮できるのは、一流の演奏家になるための重要な資質の一つであろう。

とにかく低音・中音がものすごく鳴る。牛のように太い鳴りである。あの華奢な体のどこにそんなパワーがあるのかと、驚くばかりだ。大きな音が出せるから、小さな音が生きてくる。表情に変化がつけられる。そして、高音は透明感があって、暖かみを保った美しい音。

全体に重心がきっちりすわっており、音の最初から最後まで息の圧力が持続しているから、音が散漫になることが無い。骨太の芯がびしっと通って、音楽が前に前にと進んでいく。

どの曲もおしなべて見事だったが、一番良かったのは、前半の最後に吹いたタファネルの「リミニ」幻想曲である。超絶技巧の難曲であるが、確信に満ちていた。

曲として興味深かったのは、シューベルト。プログラムに「美しき水車小屋の娘」から、と書いてあるのを見て、ははーん、と思ったが、やはり予想どおり。シューベルトのフルート曲と言えば、「しぼめる花の主題による序奏と変奏曲」という曲が有名なのだが、それではなく、元となった歌曲「しぼめる花」の方をフルートにアレンジして吹いたのである。(「しぼめる花」は、歌曲「美しき水車小屋の娘」の第18曲) 

プーランクのソナタは、数ある古今のフルート曲の中でも非常に重要な曲と言われ、演奏会でしばしば取り上げられる。譜づらは一見それほど難しくなさそうに見えるのに、実際に吹くとなかなか曲にならない。音楽的に内容が濃く、演奏者に対して厳しい要求をつきつけてくる手強い曲だ。ズュージャにして、この曲ではいくつかミスがあったり、コントロールが甘くなった箇所もあった。それほど難しい。しかし、この曲特有の感情の変化を深いレベルで描き分けていたのは、真に素晴らしかったと思う。音の処理や解釈にも新鮮なアプローチが多々あり、非常に勉強になった。師匠、さすがである!

ピアニストは川上さんという日本人で、プログラムの紹介文によると、1989年に毎コンのジュニア部門で1位。東京音大を経て、英国王立音楽院の大学院卒。教会のピアノ(REID-SOHN)がコンサートグランドではなく小型だったせいもあるのか、若干控えめな演奏だったような気もするが、音がぶつ切りにならず、エネルギーが持続しながら面として聴こえてきて、これが音楽のしっかりした構成感につながっていた。音が均質で粒立ちが良い。押さずに、上手に響かせていたように思う。

特筆すべきは、アンサンブルとしての2人の息の合い方。テンポといい、バランスといい、申し分ない。2人とも、とても良い耳を持っているに違いない。

休憩入れて1時間半くらいだっただろうか。かなりたっぷり聴いたが、もっと聴きたいという気持ちだった。アンコール無しだったのが残念・・・。終演後は、楽屋でズュージャと立ち話。そういえば去年の4月末にレッスンしてもらったのが最後で、8ヶ月以上も空いている。近いうちにまた見てもらう約束をして、会場を後にした。家に着いたら、もうズュージ(10時)を回っていた。
[PR]

by bibinga | 2008-01-19 23:26 |  

<< コンサート備忘録(アンジェラ・... オペラ備忘録(英国ロイヤルオペ... >>