コンサート備忘録(ヤノフスキー指揮スイス・ロマンド管弦楽団)

d0135403_82641.jpg2008年1月27日(日) バービカン・センター

マレク・ヤノフスキー指揮
ニコライ・ルガンスキー(P)
スイス・ロマンド管弦楽団

モーツァルト ピアノ協奏曲第21番ハ長調
ブルックナー 交響曲第5番変ロ長調



六本木と言えばアマンド、スイスと言えばスイス・ロマンド。
肩こりと言えばアンメルツ、スイス・ロマンドと言えばアンセルメ。

LP時代からのクラシックファンなら、「アンセルメ&スイス・ロマンド管弦楽団」という名前は強烈に記憶に残っているはずだ。しかし、近年、スイス・ロマンドという名をとんと聞かなくなり、存在を忘れかけていた。正直、「まだ、あったのか・・・」と思ってしまった。プログラムがブル5で無ければ、マイナーになってしまったこの楽団を聴くために日曜の夜にバービカンまで出かけていくことはしなかっただろう。

チケット代が安い。外来オケなのに、ロンドンを拠点とするロンドン交響楽団やフィルハーモニア管弦楽団よりも安いのだ。団員と楽器を飛行機で運んで、ホテル代もかかるだろうに、こんなことで採算が合うのだろうかと、他人事ながら心配になってしまう。これって、つまりこれほど安くしなければ客が入らないということだろう。往時の名門オケもすっかり落ちぶれ、これでは大した演奏は期待できないな、と思っていた・・・。しかし、この期待は、良い方向に裏切られることとなる。

前プロはモーツァルトのピアノ協奏曲第21番ハ長調。

ソリストはルガンスキー、1994年のチャイコフスキー・コンクール優勝者だ。スケールが大きく、力のある骨太のピアノ。指が非常に良く回り、音楽をはっきりとしゃべっている。(「はっきりしゃべる」ことは演奏において非常に重要なことだと常々考えている)

色の変化はあまり無い。まばゆい白い光。その光が強くなったり、弱くなったりという変化はあるが、赤・青・黄色に色を変えることは無い、という印象である。結果的にそうだったのか、意識的にそうしようとしたのかは不明だが、この音色が、ハ長調という調性にマッチしていたのは確かだ。

個人的には、モーツァルトはもっとデリカシーを持って弾いて欲しいと思うが、まあ、それは趣味の問題だろう。オケは予想に反して、なかなか上手い。俄然、後半が楽しみになってくる。

メインはブルックナーの5番。

不思議なことに、ロンドンではブルックナーが演奏される機会は少ない。せいぜい、外来オケがプロムス(夏の音楽祭)で取り上げるくらい。在ロンドンのオケが取り上げることは滅多になく、5大オケ全部合わせても年に1度あるかどうかだろう。そのような中、直近1年は、コンセルトヘボウの3番・8番、ウィーンフィルの4番、そして今回のスイス・ロマンドの5番と、ブルックナーの当たり年だった(外来オケばかりだが)。

マレク・ヤノフスキーの振るブル5は、2年前に1度聴いている。といっても、ロンドンではなく、ベルリンにてベルリン放送交響楽団で聴いた。(いくら物好きの私でもベルリン放響を聴くだけのためにベルリンまで出かけるわけはなく、この時は、昼にベルリンフィル、夜にベルリン放響のダブルヘッダーだった。しかも会場も同じフィルハーモニーザール。ベルリンフィルではハイティンクのドタキャンに見舞われ、アラン・ギルバートのベルリンフィル・デビューを聞かされるはめになったが…)

その時のヤノフスキーの印象がとても良かったので、スイス・ロマンドの実力に懸念は抱きつつも、多少は期待する部分もあった。実際はどうだったかといえば、、、

スイス・ロマンドは在ロンドンのオケより、上手い! ロンドン交響楽団にしても、フィルハーモニア管弦楽団にしても、演奏会の回数が多すぎるのか、彼らの演奏はどこかくたびれていて、角が崩れているような気がする。たまに巨匠が振るとぐっと引き締まった素晴らしい演奏をするので、能力は高いはず。普段は疲れているか、やる気がないか、手抜きしているか、のどれかとしか思えない。彼らより、今日のスイス・ロマンドの方がずっと上だ。(もっとも、スイス・ロマンドも演奏旅行だからこそ気合いが入ったのであって、本拠地のジュネーヴでは同じようにヘタっているのかもしれないが…)

スイス・ロマンドの音は、明るくて、音に輝きがある。重すぎず、良い意味での中庸の軽さを持っている。音色の傾向としては、ベルリンフィルに近いと言えなくもない。

トゥッティではエネルギーを湛えた張りのある音が素晴らしい。「内転筋の引き締まった太もも」を思わせる。(ほんとか?) 響きの薄い箇所、テンポの遅い部分で緊張感が切れそうになる危うさもあったが、全体として、音色的にもアンサンブルの精度も、かなりのレベルにある。弦楽器が朗々と鳴って気持ち良い。管はパートによって若干バラツキがあるが、ラッパとフルートが上手い。

ヤノフスキーの指揮は、大きな構造を把握し、音楽の流れを大切にしながら、効果的にクライマックスを作っていく。場面転換が明確で、しかもそのつなぎが自然である。テンポ、ダイナミクスがきっちり計算されていて、それが実際の音に表れるよう、オケをグリップし、コントロールしている。息の長いクレッシェンドは特に見事。「ご利用は計画的に」をきちんと守っているからこそ、これができる。

どの楽章も素晴らしかったが、大きなフレーズの中で迫り来るうねりを見せた第2楽章と、絢爛たる音の大伽藍が3次元的に聳え立って見えた第4楽章が、とりわけ良かった。

それにしてもブル5は、内容の濃い曲である。聴き終わって頭の芯がびりびりと痺れるような疲れを覚えた。

終演は10時近く、家に着いたのは11時前であったが、こういう熱演を聴いた後はクールダウンしないと眠れない。まず風呂に入って、それから夕食と晩酌である。お好み焼きを作ろうかと思ったが、深夜に食べるにしてはカロリーが高すぎると思い直し、ワインのつまみ程度の軽い食事にとどめる。(おお、めずらしく自制心が働いた!)

どういうワインを選んだかは、、、、、、このブログの読者なら察しがつくであろう。

d0135403_8241660.jpg

Gevrey-Chambertin Cherbaudes 2004 (Domaine Fourrier)











そう、ブル5の後は、ブルゴーニュ。
(すぐ上にブル5というヒントもあり、この展開は簡単に読めたでしょう?)

ブルゴーニュはジュヴレ=シャンベルタン村の1級畑、シェルボードである。この畑はマジ=シャンベルタン(特級)のすぐ下、シャペル=シャンベルタン(特級)の並びにある良い畑だ。

フーリエは、ロンドン1のワインマニアだと私が信じるM氏のお気に入りの生産者である。フーリエの真骨頂はグリオット=シャンベルタンやクロ・サンジャックにあるのだが、この2つは生産量が少ないため、M氏のような本気モードの愛好家が争奪戦を展開し、瞬間蒸発してしまう。それに比べてシェルボードはお気楽銘柄なので入手は容易、価格もこなれている。私のような「ほどほどのワイン飲み」には丁度良い。

パワーがありながらも優しいワインだ。紫、赤、両方の要素を持っている。気品があって、どこか涼しげ。天候不順の04にしては酸と果実味のバランスが良く、香りも立っている。美しいワインだ。疲れた体にすーっと染みわたり、ゆるゆると精神を溶かしていく。

ワインをゆっくり飲みながら、ナタリー・デセイの日記を書く。デセイの美しい声が頭の中に蘇ってきて、ワインと呼応する。もう1時を回っているが、音量を絞ってデセイの新作CDをかける。2時半、日記を書き終わる。グラスを洗う。3時、こういうゆったりした時間と別れるのは寂しいと思いつつ、寝床に向かう。ああ、明日は月曜日だ…、と思いながら眠りに落ちた。
[PR]

by bibinga | 2008-01-27 23:55 |  

<< アンジェラ・ヒューイット補足 コンサート備忘録(ナタリー・デセイ) >>