オペラ備忘録(ローザンヌ歌劇場・カルメン)

d0135403_22583243.jpg2008年10月15日(水) 東京文化会館大ホール

ローザンヌ歌劇場
ジョルジュ・ビゼー 「カルメン」

指揮:シリル・ディーデリッヒ (Cyril Diederich)
演出:アルノー・ベルナール (Arnaud Bernard)


カルメン:ベアトリス・ユリア=モンゾン (Beatrice Uria-Monzon)
ドン・ホセ:ルーベンス・ペリッツァーリ(Rubens Pelizzari)
エスカミーリョ:ミコワイ・ザラシンスキ (Mikolaj Zalasinski)
ミカエラ:ブリギッテ・フール (Brigitte Hool)
フラスキータ:ソフィ・グラーフ (Sophie Graf)
メルセデス:カリーヌ・セシェ (Carine Sechaye)
ダンカイロ:マルク・マズイル (Marc Mazuir)
レメンダード:アンベルト・エルブ=ピノ (Humberto Ayerbe-Pino)
スニガ:ブノワ・カプト (Benoir Capt)
モラーレス:サシャ・ミション (Sacha Michon)

ローザンヌ室内管弦楽団、ローザンヌ歌劇場合唱団、ルードラ・ベシャール・バレエ学校


会場は大入満員。別の日の東京公演は、とある筋でチケットが半額に値下げされていたことから推察して、売れ行きが相当悪かったようだが、この日は都民劇場の会員向け公演だったためだろう、空席はほとんど無かった。これだけ埋まると、演奏する側も気合いが入るに違いない。

前奏曲が鳴ったとたん、オケの音にハッとした。これはまさしく、フランス語圏のオケの音だ。明るくて、ふわりと軽い。

これまで、カルメンは英国ロイヤルオペラとベルリン国立歌劇場でしか観たことがなく、DVDもクライバー/ウィーンを見慣れてしまっているので、「ガンガンに鳴る前奏曲」が脳裏に擦り込まれていたが、なるほど、フランス物の響きはこうなんだな、と納得。このオケの音は終始魅力的で、管楽器が上手く、特にフルートの音色は惚れ惚れとする美しさだった。

さて、歌手。カルメンを歌ったユリア=モンゾン、この人の声は、ちょっと地味めではあるが(メゾなので・・・)、深みと弾力のある素晴らしい声だ。表情付けも緩急自在、役が手の内に入っている。コントロールがしっかりしており、音量・テンポを大胆に変えても、揺らぐことがない。ブレスが少し目立つ箇所もあったが、息が長く、フレーズが持続する。この日の歌手陣の中で断トツであった。

次に良かったのは、ミカエラを歌ったブリギッテ・フール。ミカエラにしては、ドラマティックに仕立てすぎた感もあるが、声量があり、良く伸びていた。3幕のアリアは満場を聞き入らせるだけの存在感があった。

女性2人に比べて、男性2人はちょいと見劣りがした。ホセのペリッツァーリは、ゆったり歌う場面では声が出ていたが、切迫してくるとストンと落ちてしまう。支える馬力が無い感じ。2幕の「花の歌」は無味乾燥で訴えてくるものが無く、がっかり。ただし、尻上がりに調子が出てきて、最後、カルメンに「捨てないでくれ」とすがる場面の熱唱で何とか体面を保った。

エスカミーリョのザラシンスキは、声量はあるのだが、歌も演技も野暮ったい。闘牛士が安っぽい芸人のように見えてしまっては興醒めである。

演出上興味深かったのは、4幕の前半。闘牛士の行進の場面が屋外ではなく、カルメンの泊まっている宿の室内という舞台設定になっていた。行進の一行は舞台には現れず、窓越しに行進の音だけが聞こえてくる。部屋には寝具の乱れたダブルベッドが置いてあり、ここが2人の愛の巣になっていることが窺われる(既にこういう関係にまで進んでいるわけね・・・)。エスカミーリョが部屋に入ってきて、カルメンをしかと抱きしめてから、闘牛場に向かう。

外では群集が花形闘牛士エスカミーリョの登場にやんやの喝采を送っているのに、当の本人は宿の部屋の中でカルメンといちゃいちゃ。「あんた、そんなことやってる場合かいな、早よ行きぃな!」と言いたくなってしまったが、着眼としては面白い。フラスキータとメルセデスが窓から外を見てホセを発見する、というのはうまい処理だ。

全体に小気味良いテンポでサクサク進行し、「軽めのカルメン」であった。感銘を受けるというには至らなかったが、とても楽しむことができ、大いに満足して家路についた。欧州のオペラハウスと比べると、東京文化会館は会場として何とも味気ないが、そうは言ってもオペラはオペラ、これだけのものを日本で観られるというのはまずもってありがたいことである。

ノート
・ 本公演は当初、マリーナ・ドマシェンコが歌う予定であったが、病気で来日できなくなり、ユリア
  =モンゾンに変わった。帰国後初めて見るオペラでいきなり主役のキャストチェンジに見舞わ
  れるとは、「キャンセルを呼ぶ男」の本領発揮である。
・ とはいえ、ユリア=モンゾンが素晴らしかったので、特に不満はない。ドマシェンコのカルメンは、
  ベルリンで聴いているので、むしろ変わって良かったかも。
・ キャンセルと言えば、ロンドンで聴いた最後のコンサート、出国前日3月19日のロイヤル・フィル
  では、ガッティの指揮を楽しみに買ったのに、指揮者が変わってしまったのだった・・・。(あの
  日、終演後にRFHそばのレストランで「最後の最後の送別会」を催してくださったAKさんとMK
  さん、こんなところでナンですが、本当にありがとうございました)
・ 都民劇場は5公演をセットで購入するシステム。仕事で行けなくなるリスクがあるので、前もっ
  て券を買うことにはためらいがあるが、無理やりにでも予定を入れていかないと全く聴きに行か
  なくなるので、えいやで買ってしまった。ちなみに今期の残りの公演予定は、エヴァ・メイ&シ
  ラクーザ、ツィメルマン&チョン・ミョンフン/東フィル、ゲルギエフ/LSO、ブレハッチと、心を
  くすぐられるセレクションである。
・ 会場が東京文化会館というのも、埼玉在住の私にとっては帰りが楽で助かる。何しろ、仕事が
  遅くなったフリをして、家内に内緒でこっそり聞いて帰るので、終演後は一刻も早く帰宅すべく
  猛ダッシュなのである。上野からだと50分で帰り着ける。
・ 都民劇場は、寛容にも、埼玉県民である私を快く入会させてくれた。(特別扱いではなく、都民
  以外でも入会できる旨、パンフレットに書いてあります)
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by bibinga | 2008-10-19 22:56 |  

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