<   2010年 06月 ( 1 )   > この月の画像一覧

 

すごすぎる、ヒラリー・ハーン!(サロネン&フィルハーモニア)

2010年6月1日(火) 東京文化会館大ホール

エサ=ペッカ・サロネン指揮
ヒラリー・ハーン(Vn)
フィルハーモニア管弦楽団


サロネン     ヘリックス
チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲ニ長調

  アンコール: バッハ 無伴奏パルティータ第3番からメヌエットⅠ
ベルリオーズ   幻想交響曲
  アンコール: ドビュッシー 夜想曲から「祭り」
          ワーグナー  ローエングリン第3幕への前奏曲

どの曲も素晴らしい演奏であったが、とりわけ感動的だったのはヒラリー・ハーンのソロだ。チャイコンを聴くのはこの1年で3回め。前2回のソリストも悪くなかったが、ハーンの演奏は次元が違う。

テンポも歌い方も、耳に慣れたチャイコンとは随分印象が違う。「こんなチャイコもあり?」と虚をつかれたが、新鮮かつ迫真力のある素晴らしい演奏にたちどころに魅了された。

遅めでじっくりと弾き込むテンポ、しなやかに粘りながら明確さを失わないアーティキュレーション、よく伸びて純度の高い音色。全てが考え抜かれ、磨き抜かれ、確信に満ちている。チャイコにハーンが取り込まれるのではなく、ハーンがチャイコを取り込んでいる。

素人の雑感だが、ハーンは、Vnを旋律楽器として捉えるのではなく、和声を強く意識して弾いているのではないかと思う。型を破った自由な表現をする時に、旋律だけを追っていては四隅が決まらなくなってしまうが、和声を押さえているから音楽が乱れない。

アンコールのバッハは、これまたあまりの見事さにため息が出たが、特にダブルストップの響かせ方の美しさは鳥肌もので、和声感覚の鋭さを如実に示すものと思う。

ハーンは2007年にウィグモアホールでのリサイタルを聴いており、当時は演奏の素晴らしさに心を打たれつつも、いささか生硬との印象を持った。今回の演奏を聴き、技術の高さはそのままに、より大胆に独創性を表出できるようになったと感じた。「守破離」で言えば、「守」から「破」に入ってきた旬の演奏家。これからもますます進化を遂げていくに違いない。大大大ファンになった。


オケも立派だった。フィルハーモニアは技術的には若干甘いところのあるオケだが、海外公演ということで気合いが入ったのか、精緻なアンサンブルだった。持ち味の柔らかい音色に加え、輝かしさとスケール感が加わっていて、巨大建造物のように音が立ち、体の芯にまで響いてくるような迫力があった。(日本のオケは上手いけれども、こういう音がなかなか出せない。過去聴いた中では、朝比奈&N響のブルックナー9番くらいである。これは、あの鈍いNHKホールが揺れていると錯覚するほど、凄い音がした)

ケネス・スミスのフルートは相変わらず上手い。吹く姿は「やる気無さそー」に見えるが、出てくる音は凄い。丸くて明るい音は他の楽器とよく溶けながらも、一際強く輝やいて聞こえてくる。

サロネンは、端正な中にもメリハリを効かせた音楽作りをしていたように思う。幻想の4・5楽章の盛り上げ方は大したものだ。変わったところでは、2楽章にコルネット・オブリガートを採用(1楽章の後、奏者が席を移動し、木管後列に入って吹いていた。どちらが先か知らないが、ラトルも同じようなことをやっているらしい)。5楽章ではスル・ポンティチェロやコル・レーニョをばりばりに効かせていた。

ロンドンで繰り返し聴いたフィルハーモニアやLSOを日本で聴くのは、旧友に再会したように懐かしく、何とも言えずよいものである。かつて見たことのある名画に、別の地で再び出会う喜びと似ている(演奏は1回1回がその場限りであり、同一の物に再会するわけではないが)。

日本公演では、フィルハーモニアの本拠地ロイヤル・フェスティヴァル・ホールよりはるかに良いホールで聞けることも嬉しい。ロンドンの泣き所は、音響の良いコンサートホールが無いことだ。世界中からトップクラスの演奏団体がひっきりなしにやってくるのだから、ウィーンのムジークフェラインとは言わないまでも、サントリーや東京文化並みのホールが1つでもあると良いのに、と残念に思う。
[PR]

by bibinga | 2010-06-06 11:21 |