小漫才「ローマの休日」 作:Bibinga
(関東人2人が、たどたどしいエセ関西弁で)
A いよいよ夏やなぁ。
B 夏やなぁ。
A 夏休み、はよ来んかなぁ。
B 待ち遠しいなぁ。
A 夏休み、なんか予定あるん?
B ちょいと、北海道へ。
A 北海道! そいつはええなぁ、涼しそうで。 で、北海道の、どこ、行くん?
B 浦和。
A 浦和? そら、埼玉やろ。 北海道ちゃうがな。
B 浦和伊勢丹でな、「北海道物産展」やるねん。
A なんや、そういうことかいな。
B みやげ、買うてくるで。六花亭。
A そら売っとるやろな。六花亭は定番やし。
B 「白い変人」。
A 変人ちゃうやろ、恋人やろ。漢字、間違えるな!
B 文句あるなら、みやげ、やらんで。
A わかったわかった。変人でも、恋人でも、どっちでもええわ。
ところでな、実はな、わしもな、行くねん。
B どこ行くねん?
A どーんと気張って、イタリアや。 どや、すごいやろ。
B イタリア…長介?
A それはドリフ。
B イタリアって、どこにあんねん? 浦和の近くか?
A あほ。 イタリアはヨーロッパじゃ。 ヨーロッパの「真ん中のちょっと下」ら辺や。
B 真ん中のちょっと下、言うたら、(指さす) へその下ら辺か。 いやらしい場所やな。
A あほ、なに訳わからんこと言うてんねん。 ヨーロッパの下じゃ。 地中海寄り、ちゅう意味や。
B ああ、地中かい。 暗いやろな、地面の下は。
A ちゃうちゃう。海やて、う・み。 ち・ちゅう・かい、ちゅう海や。
世界地図見てみぃ。 長靴みたいなカッコしててな、地中海に突き出てんねん。
B あー、長靴ね。 夏は蒸れそうやね。
A 履いてない! 国のカタチや。 もう、ええわ。
それでな、イタリアのな、ローマに行くねん。
B おばあちゃん、ね。
A それは「老婆」。 しょうもない駄洒落かますな、もう。
ローマ言うたらな、昔、「ローマの休日」ちゅう、ええ映画があったんや。
B 懐かしいですなぁ。そうそう、腹抱えて、笑い転げましたがな。
A 待てぃ。 そういう映画ちゃうやろ。 ロマンスやで。
天下の美女、オードリー・ヘップバーン。 きれいやったなぁ。
B そうそう、時を告げとりました。
A それは「オンドリ」やろ。
B 神社の前に、でかいのが、立ってましたなぁ。
A それは「大鳥居」。
B さあ、皆さんもご一緒に。 お手を拝借、よおーぉーッ。
A それは「音頭とり」。 もー、ええわ。 ええかげんにせい。
「ローマの休日」はな、王女さまがな、新聞記者とつかの間の恋を楽しむんや。
B 淫乱な女ですなぁ。
A あほ。 王女さまや。 純粋で、きれいな、王女さまや。 バチあたるで、ほんまに。
えろぅ純真でなぁ、知っとるか、あの場面・・・。
B いや、知らん。
A 待てぃ、どの場面か、まだ言っとらんだろ!
教会があんねん。 その教会の壁に、ライオンの顔の彫刻が埋まってんねん。 でな、口のとこ
がな、穴になっとってな、そこに手ぇ入れるねん。 でもな、ウソつきが手ぇ入れるとな、ライオン
が手ぇ噛むねん。
B そら危険やがな。ケガしよるで。
A あほ、彫りモンや。 ほんまに噛むわけないやろ。 でもな、王女さまはな、ピュアピュアやから
な、ウソつきは手ぇ噛まれる、言われて、びくびくすんねん。
B ああ、それ知っとる。 思い出したわ。 「
マサミの口」やろ。
A マサミちゃうがな、真実や。 「真実の口」。 訓読みすんな。 漢字ちゃんと読め!
B ナンスミヨンク。
A は?
B ナンスミヨンク。 上から読んでもナンスミヨンク、下から読んでもクンヨミスンナ。
A あほ、上からと下からと、全くちゃうやんか。 もう、訳わからんわ。
B ワンラカワケワ。
A は?
B 上から読んでもワンラカワケワ、下から読んでもワケワカランワ。
A やめぃ、ほんとにもう。
B やめぃ、ほんとにもう。
A こんどは、そうきたか。
B こんどは、そうきたか。
A だから、やめろって。
B だから、やめろって。
A 真似すんなよ。
B 真似すんなよ。
A (つぶやく) まいったな・・・。
B (つぶやく) まいったな・・・。
A いいかげんにしろよ。
B いいかげんにしろよ。
A この、真似し小僧!
B この、真似し小僧!
A (大声で) わッ!!
B (大声で) わッ!!
A (超早口で) おまえのかあさん出べそ!
B (一瞬、間) ほんとかよ。 どうして知ってんだよ。
A (たじろぐ) いや、別に知ってるわけじゃ・・・。
B 見たのかよ。 聞いたのかよ。 どうしてそんなこと知ってるんだよ。 言えよ。
A いや、そういうんじゃなくて・・・。
B ごまかすなよ。 うちのかあちゃんが出べそだったら、大問題だぞ。
A ほら、あのさぁ、よく言うじゃんか、一般にだよぅ。 「おまえの・・・」。
B あん? おまえの、なんだ? もう一遍言ってみろよ、え、なんだよ。
A いや、それはその・・・。
B 言えよ、誰から聞いたんだよ。
A たぶん、オレの聞き間違いだよ。 ごめん、忘れてくれ。
B んな大事なこと、聞き間違えるわけないだろ。 ごまかすなよ。 言えよ。 誰から聞いたんだよ。
A 困ったな・・・。 ええっと、その、、、誰だっけ、あ、そうそう、君の、前の彼女だよ。 たしかアケミ
ちゃんって言ったよね。 うん、そうだよ、アケミちゃんがそんなこと言ってたような気がする。
でも、もうとっくに別れたんだろ? 今、どこにいるのかな、彼女、はは。
B 縁りを戻して、今一緒に暮らしてんだよ。 そうか、アケミか。 すぐに帰って、問い詰めてやる。
でまかせだったら、半殺しだ。
A ちょ、ちょっと待て。 違う、違った。 アケミちゃんじゃない。
(独白、小声で) おー、やべぇ。アケミちゃん、半殺しになっちまう。
(元の調子で) そうだ、思い出した、前の前の彼女だよ。 勘違いした。
B なに? ほんとか? 間違いないな?
A う、うん、間違いない。
B 絶対、間違いないな?
A ぜ、ぜったい、間違いない。
B ライオンの口に、手入れられっか?
A い、入れられる。
B よし。 ということは、スミレがしゃべったんだ。 あいつの居場所はわかってる。 今から行って、
とっちめてやる。
A ま、待て。 違った。 ごめん。 えーっと、その、えーっと。 なんだっけな。 そうだ、前の前の前の
前の、そのまた前の彼女だ。 もう、名前も思い出せないけど。
(独白、小声で) これなら、ごまかせるよな。
B なに? 前の前の前の前の、そのまた前の彼女だぁ? 間違いないな?
A ま、間違いない。 (独白、小声で) ま、まさか・・・。
B 前の前の前の前の、そのまた前の彼女かぁ。
(突然、頭を抱えて) あ、あいつか! マサミだ。マサミに違いない。 そ、そ、そうだったのか。
マサミの口から出たのか・・・。 だったらそれは
「真実」だ。
了
(真似し小僧になったあたりから、関西弁はどこへやら、漫才どころではなくマジ焦った会話になっていく、、、その調子の変化がポイントです)